第5章

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曲がり角の手前で車を停めると、車から降りそっと奏の家の前を窺う。重厚な門扉が今は開かれ、男が一人黙々と掃き掃除をしていた。 門前には修也の車が停められている。あんな真ん前に停めなくてもいいだろうに。そんな風に思いながら、修也が出て来るのを待っていた。 ふと、視線を感じたのか、掃き掃除をしている男が顔を上げた。10代後半か20代前半の若者は、鋭い視線で圭太を睨み付けて来た。 通りの角から様子を窺う圭太はかなり怪しい。良くてストーカーか、下手したら他所の組の鉄砲玉に見えるかもしれない。そのことに思い至り、圭太は慌てたようにブンブンと首を左右に振った。 一歩足を踏み出しこちらに来ようとした男が、そんな圭太を見、その足を止め、不思議そうに首を捻る。さっき漂わせた剣呑な雰囲気は消えている。多分、圭太だと気付いてくれたのだろう。その証拠に、修也の車や、母屋の方へと視線を移す。風太は中に居るのにと、思っているのかもしれない。 戸惑う様子を見せる男に対し、圭太はしっーと人差し指を口元に持って行った。 騒がないで欲しい。出来れば見て見ぬ振りをして欲しい。そんな思いを込めて。 男が目をパチクリとさせ、辺りをキョロキョロと見渡し、また圭太を見る。同じように人差し指を口元に持って行く動作を見せると、圭太は首を縦に何度も振った。 訝りながらも、男は圭太の意図を察してくれて、また掃き掃除に戻った。圭太は安心したようにホッと息を吐き出した。
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