第5章

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暫くすると、掃き掃除をしている男が、顔を上げた。玄関の方を振り返る様子を見て取り、圭太は慌てて角に身を隠した。 「お疲れ様でした」 「・・・お疲れ様」 苦笑を交えながら返事を返す修也の声が聞こえた。圭太は車に乗り込み、耳を澄ませる。車のエンジンが掛かる音、発進する音を確認して圭太もエンジンを掛けた。 大通りを東に向かって進む車を、2、3台間に挟み尾行した。緊張のせいか、汗の滲む手をズボンに擦り付ける。 落ち着けと、自身に言い聞かせた。 車は峠を一つ超え、街中に入って行く。尾行は呆気に取られる程上手く行き、目的地であるらしいファミレスの駐車場へと指示器を出した。圭太はそのまま通り過ぎると、Uターンをし、反対側の路肩に停まった。 窓際に座る修也を確認し、向かいに座る相手へと視線を向ける。見覚えのある姿に、圭太はピクリと体を揺らし固まった。 目を瞠り、修也の前に座る女性を凝視する。 「・・・・・・沙織?」 黒っぽいスーツを着た沙織は、背筋をピンと伸ばし修也を見据えている。話の内容までは分からなかったが、余り友好的には見えなかった。 何故とか、どうしてとか、そんな言葉が頭の中でグルグル回る。圭太は呆然としたまま、共すればとっ散らかりそうになる頭を整理しようと試みた。 上手く行く気は全くしなかったが。
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