第5章

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二人には接点がない筈だ。そう思い、だが、圭太はその考えを直ぐに否定した。圭太の脳裏に、調査会社の名が入った茶封筒が思い浮かんだからだ。 『麻生探偵事務所』 あれには確かそう記載されていたんじゃないだろうか。あやふやな記憶を手繰り寄せる。そうして、改めて窓際に座る二人に視線を向けた。 真剣な顔で何事かを話し合っている。それは離れた場所に居る圭太にも伝わって来た。 ーー俺のことで話をしているのか? 二人に共通する話題で、思い浮かんだのが自分自身だった。だとしたら余計に、修也が内緒にした理由が分からない。沙織とは以前から面識があった。お前の浮気調査をしたのが俺だと、言えばいいだけだ。最終的に、それが後押しして離婚に至ったのだとしても、修也を責めたりはしない。 修也は依頼された仕事をした。悪いのは浮気をしていた俺であって、修也を責めるのは御門違いだ。確かに、中には逆ギレをして乗り込んで来る奴も何人か居たが・・・修也は、俺がそんな奴だと思っているのか?だから話せなかったのか? 自分のしたことを棚に上げて、関係のない相手に逆恨みするような人間だと? そこまで考え、圭太の胸がズキンと痛みを訴えた。唇を噛み締め、俯く。 隠れてコソコソと会われるよりも、その考えに深く傷付く。勝手な思い込みかもしれない。でも、今まで何も言わなかったことも、素振りすら見せなかったことも、そう思われていたからだと思えば、説明が付くような気がして圭太は、更に痛む胸を押さえた。 暫くの間、そのままの体勢でじっとしていた圭太は、詰めていた息を静かに吐き出し、エンジンを掛ける。サイドミラーを確認し、車を発進させた。
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