第5章

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そんな圭太を見て、沙織は痛みを堪えるような顔をする。 「男とか関係ない。俺は奴に惚れてんだよ」 もう一度繰り返し、改めて沙織を見る。 「だから別れるつもりはない」 「風太がそのことで傷付いたとしても?子供は大人と違って無邪気で素直な分、酷く残酷よ?」 沙織の声が震えていた。そんなにも風太のことを心配しているのかと驚き、その後で母親だもんなと納得する。 「その辺は話し合うつもりだ。風太にとっても俺たちにとっても、最善の方法を考える。・・・心配掛けてすまないな」 殊勝な顔を向けると沙織が圭太の手を握った。 「違うの、そうじゃないのよ」 握られた手を見て、沙織に視線を移す。じっと物言いたげな顔で圭太を見る沙織の目に浮かんでは消える様々な感情を見て取り、圭太はスッと視線を逸らした。 圭太は、沙織が言外に隠した気持ちや想いを理解した。そうして、やんわりと手を引いた。 「圭太」 焦れたように名を呼ぶ沙織に「無理だ」と告げた。 「まだ何も言ってないじゃない」 「じゃあ、言うな」 強く見返した。 「何も言うな。聞きたくない」 「圭太」 「俺たちは終わったんだ。・・・終わらせたのは、お前だ」 沙織の目に涙の膜が張る。一筋二筋溢れ落ち、決壊した。 「だって、だって仕方ないじゃない」 沙織はそう言ってボロボロと涙を零した。
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