第5章

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「私ね、圭太に嫉妬して貰いたかった。・・・だから、浮気したんだ」 失敗だったけどねと、沙織が自嘲する。 「浮気を知っても、圭太は何も言わなかった。『へぇ』って言って笑ったのを見た時、もうダメだと思ったの。それでも、諦め切れない自分が居て・・・完膚なきまでに叩きのめされて、諦めたかったから調査会社に依頼して、圭太を調べて貰った」 「俺を叩きのめす為じゃなかったのか?」 圭太の問いに沙織が「違うし」と半笑いを浮かべた。おしぼりを手にして、目元を拭う。 「出るわ出るわで、呆れ半分。後は・・・情けなかったな」 「悪かったな」 どうせ情けない男だよと、拗ねたように呟けば「私がね」と沙織が訂正する。 「それでも圭太を嫌いになれない自分が情けなかったのよ。こんな最低な浮気男って、切って捨てることが出来なかった。別れることが一番良いって分かってたのに、圭太に愛されてないって事実をどんなに突き付けられても、嫌いになれなかった。別れることなんて出来なかったのよ」 圭太の奥さんの座を、他の誰かに渡したくなかったのと、意地になってたのだと沙織が言った。 「いい判断だったと思うぞ?」 別れたくなかったと言いながらも、沙織は別れを選んだ。あのまま圭太の傍に居ても、沙織は決して幸せにはなれなかっただろう。 下手したら、精神を病んでいたかもしれない。
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