第5章

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「・・・別れて正解だったってこと?」 「ああ、俺には沙織を幸せにしてやれない」 圭太がそう言うと、沙織は「それでも良いって言ったら?」と思い詰めた表情をした。 「・・・あの時ね、付き合っていた彼の子供を妊娠したのが分かったの」 圭太は軽く目を瞠り、沙織を見た。 「・・・そう、だったのか」 だから風太を置いて行ったのかと、圭太は納得した。子供を身籠り、新しい家庭を築くのに前の相手との間に出来た子供は連れて行き難いよなと。 「じゃあ、風太には妹だか弟が居るんだな」 圭太のその言葉に、沙織は首を振った。 「産まれて直ぐに・・・亡くなったから」 心臓に欠陥があったのだと言う。堕胎も勧められたらしい。産まれても、永くは生きられないだろうと。それでも数パーセントでも可能性があるならそれに賭けたかったから産むことを選んだのだと沙織は静かに語った。 「子供が亡くなって、彼ともギクシャクし始めたの。二人で何とか乗り越えようって、頑張ったんだけど、どうしてもダメだった。気持ちがね、どうしても彼に向かなかったの。亡くなった子供のこと、風太のことばかり考えた」 沙織は泣くのを堪えるかのように唇を震わせた。 「・・・風太を捨てた罰を受けたんだって思った。・・・夢にね、圭太が出て来るの。風太を捨てて男に走ったりするから、そんな目に合うんだって、お前が被る罰を赤ん坊が受けたんだって・・・お前なんて母親失格だって、夢の中の圭太が私を詰るの」 目が覚める度に自己嫌悪に苛まれたのと、沙織が呟いた。
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