第5章

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圭太は痛ましげに沙織を見た。ここで幾ら圭太が『お前が悪いんじゃない』と言ったところで、沙織は受け入れないだろう。 罪悪感に囚われ、自分を責め続けて来たのであろう沙織を、救うことが出来るとしたら、それはきっと風太の『赦し』しかないんじゃないかと、圭太は漠然と思った。 「圭太だって、本心ではそう思っているんでしょ?母親失格だって」 圭太は沙織の目を見つめた。その目を見て、何となく、沙織が断罪されることを望んでいるような気がして、圭太はそうだなと肯定した。 「お前は、母親として最悪なことをした。風太の気持ちを思えば、俺はお前を許せない」 声を押し殺し、しがみ付くように泣いていた風太を、脳裏に思い浮かべた。 「母親失格かと問われれば、そうなんだろうとしか言えない。現に、風太はそのことに酷く傷付いている。子供を守ってやらなきゃいけない親が、我が子に一生消えないかもしれない傷を付けたんだ。そう言われたって、仕方ないよな?」 鋭利な刃物で突き刺すように、圭太は沙織を責めた。後悔にまみれる沙織の傷を、圭太は更に抉る。 「男との新しい家庭を築く為に、お前は風太を捨てたんだ。新しい家庭に連れて行ったところで、風太が幸せになるとも思えないがな」 前の亭主の子供だ。新しく父親になる男が、我が子のように可愛がる確率なんてかなり低いだろう。しかも、女の腹には自分の遺伝子を持つ正真正銘の我が子が居るのだから。 「お前は母親であることを捨てたんだ。風太を切って捨てて、自分の幸せを選んだんだ」 トドメを刺すように言い放った。
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