第5章

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沙織の目から新たな涙が溢れ落ちた。圭太の、一方的とも言える非難を、言葉の刃を黙ったまま訊いている。自分の罪から目を逸らさず、真摯に受け止める沙織を、圭太は良い女だなと、改めて思った。 圭太はフッと表情を緩めると、でもなと、呟く。 「・・・でも、そうさせたのは俺だ」 沙織の体がピクリと揺れた。 「お前が母親失格なら、俺は父親失格だ。・・・沙織」 優しく慈しむように名を呼ぶ。 「お前が全部背負い込む必要はないんだ。お前が浮気したのも、その結果風太を捨てることになったのも、俺が家庭や沙織を顧みなかったせいだ。自分のことを棚に上げて、よくそこまで私を責められるわね。全部あんたのせいだって、罵っていいんだぞ?お前には、その権利があるんだから」 ゆらゆら揺れる瞳が綺麗だと思う。 「風太は良い子だな。お前がちゃんと愛情込めて育ててくれたおかげだ。感謝してる」 「・・・圭太」 「・・・風太にな、話をしたんだ。お前が会いたがっていると伝えた。・・・今はまだ風太も混乱してる。急かしてあいつを追い詰めたくない。だから・・・会うのは風太が落ち着くまで、待ってやってくれないか?あいつの中で答えがちゃんと出るまで、待ってやって欲しい」 「・・・会ってくれるかな」 不安な顔をする沙織に「あいつならきっと大丈夫だ」圭太はそう言って頷いた。
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