第5章

56/178
前へ
/599ページ
次へ
「あの男に、圭太の就職先を世話して欲しいって頼んだんだ」 思考の波に囚われていた圭太は一瞬反応が遅れた後「えっ?」と目を瞬いた。 「圭太と離婚が決まった時にね・・・ほら、圭太、仕事クビになってたでしょ?実家に頼るのならそれでもいいかなって思ったんだけど、智花ちゃんから喧嘩して出てったって訊いたから、それも無理だろうと思って・・・余計なお世話かもとは思ったんだけど、風太も居るし路頭に迷わす訳にも行かないじゃない?・・・だから、頼んだんだ」 圭太の顔色を窺いながら、沙織が一気に喋った。 「・・・あの男、顔が広いみたいだから、仕事は何でもいいから紹介してって、頼み込んだ。まさか、自分の事務所で雇うとは思わなかったけど」 「・・・沙織が?」 「・・・うん」 「修也に?」 沙織が頷くのを見ながら、だから、雇ってくれたのかと、妙に得心した。沙織から依頼されて、経歴は調べているだろう。あの時、会ったばかりで身元もはっきりしない男にどうしてそんなに親切にしてくれるんだと問い詰めたが、どれも曖昧なものだった。 修也が言った理由に、半分は納得していたが、後の半分は疑問に思っていたのだ。その謎が今溶けた気がした。それでも、過ぎる親切だとは思うのだが。
/599ページ

最初のコメントを投稿しよう!

419人が本棚に入れています
本棚に追加