第5章

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「・・・沙織と知り合いだったんだな」 回りくどいことを苦手とする圭太は単刀直入に訊ねた。 「ああ・・・彼女から訊いたのか?・・・依頼主だ」 「なんで黙ってたんだ?」 「なんでって・・・守秘義務?」 例え当事者でも、ペラペラ喋る訳にはいかないだろ?と言われれば頷くしかない。それだけで納得は出来ないが。 「それに・・・言いづらかったってのもある」 「何でだ?ーー俺が逆恨みするとても思ったのか?」 問い質す視線で見つめれば、まさかと返された。 「過程はどうあれ、結果的に彼女の背中を押したことになる。何もかも失くして、ポツンと公園のベンチに座っているお前を見た時、仕事とはいえ罪悪感が湧いた」 「だから、自分とこで雇うことにしたのか?」 「・・・その辺の事情も訊いたみたいだな」 修也の問いに圭太は頷いた。 「・・・そうか」 修也は、そう言って押し黙った。神妙な顔で何事か思案し始める。 修也からは、どこか重苦しい空気が流れて来ていた。何を考えているのか分からず、圭太は知らず眉間にシワを寄せる。何故だか、漂う空気にチリチリと肌が粟立った。嫌な予感に囚われ、膝に置いた手を握り締めた。
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