第5章

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長い沈黙のあと、修也がポツリと呟いた。 「・・・絆されたか?」 ・・・絆された?意味が分からず、圭太が怪訝な顔を向けると、真っ直ぐに射抜くような目に捕らわれた。 「お前の元嫁はお前に心底惚れてたよ。ここに依頼に来た時も、最中も、ずっと迷っていたんだ。ーー浮気はしている。だが、気付かぬ振りをしていれば、良くはならないが、悪くもならない。自分さえ我慢すれば、圭太はいずれ帰って来る。愛しているのに、傍に居たいのに、それを暴くことに何の意味があるのか・・・そう言って、ずっと悩んでいた」 修也の話を聞きながら、沙織の言葉を思い出す。叩きのめされる為に依頼をしたのだと言った。圭太を切り捨てて前を向く為に、決心したのだと。 「彼女は俺に、結婚してから今まで、浮気相手の人数を把握したいと言った。依頼内容にもびっくりしたが、調べて二度びっくりだ。片手じゃ足りないばかりか、足まで使わなきゃならねぇんだからな」 圭太は居た堪れず、そっと視線を外した。 「まぁ、写真を見て、圭太に張り付いてみて、周りが放っとかないだろうなとは思ったがな。それでも大したもんだと、呆れると同時に感心したよ」 圭太は頭を抱え「・・・勘弁してくれ」と呟いた。 悪意も揶揄も感じられない。修也は当時、思ったことを思ったまま伝えて来ているのは分かったが、いかんせん内容が内容なだけに、圭太は酷く居心地が悪い。
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