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「証拠を集め、纏め上げて彼女に調査結果を渡したよ。まだ迷いの残る顔をしながら受け取っていた。それから暫くして、彼女から電話があった。離婚することにしたってね。正直、驚いた。もしかしたら、なかったことにするんじゃないかと思ったからな」
「・・・なかったこと?」
「ああ、知らぬ存ぜぬを通せば、少なくとも表面上はなかったことになるだろ?」
きっと思い悩んだであろう沙織が脳裏に浮かんだ。本人も、それらしいことを言っていた。
「その時、圭太の仕事を紹介して欲しいと言われたんだ。昨今不景気で、前の会社をクビになった男が、小さな子供を抱えて、再就職先を見つけようとしてもダメかもしれないからってな。ーーそれを訊いて、まだ、愛してるんだなと思った」
淡々とした口調で、話す修也を見ながら、圭太は先ほど感じたのとは違う種類の居心地の悪さを感じた。
胸がざわざわした。妙に座りが悪くて落ち着かない。いきなりポンと、一人どこかに放り出されたような、置いてけぼりを食らったような心許ない思いに駆られた。
修也は目の前に居るのに、その存在がひどく遠い。
「・・・昨日、彼女に会って話をした。・・・そして、彼女はまだお前に惚れてるんだと全身で俺に訴えて来た」
敵わねぇよな。修也がポソリと呟いた。溜め息を吐き出し、真剣な面持ちで圭太を見る。その目に、圭太の肩がピクリと跳ねた。
「・・・修也?」
「昨日から、ずっと考えていた。お前や風太にとって最善は何だろうってな」
「・・・最善?」
聞くなと、どこからか声が聞こえたような気がした。今直ぐ話を終わらせろと、圭太の中で叫んでいる。その衝動に従いたいのに、修也の目がそれを許さない。身動ぎ一つ許されないような張り詰めた空気が修也から漂っていた。
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