第5章

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違う。そんなことない。自分の声が遠く聞こえた。 お前は待ってたじゃねぇか。強引に見えても、ちゃんと気遣ってたことを知ってる。俺を抱きしめながらも、不安そうに俺の様子を窺ってたことも知ってる。 なのに、何で今更、本当に今更、謝ったりなんかするんだよ。 修也に伝えたいのに、上手く言葉に乗せられなくて、圭太は何度も首を振った。 「・・・大丈夫だ。なんの問題もない」 そんな圭太を宥めるかのように修也が呟いた。 頭の中で言葉や想いがぐるぐると回った。混乱してパニックを起こしかけているのが分かり、落ち着けと、必死で自分に言い聞かせていた。 言いたいことは山ほどあった。別れる気ははないと、拒絶するつもりだった。でも、修也の顔を見れば分かる。修也の中で、別れは決定事項なんだと。今、ここでイヤだと言ったところで、修也は受け入れないだろう。 修也は圭太達の為だと言った。そんな理由に納得出来るハズがない。素直に頷けるはずはない。それでも、修也はそれを望んでいるのだ。 俺の気持ちは無視したままに。 「・・・お前はそれでいいのか?」 掠れた声が、圭太の動揺を伝えているだろうに、修也は知らぬフリで頷いた。 「・・・ああ、引き際を間違えると、エライ目に合っちまうからな。ーーそろそろ潮時だろ」 引き止める術も持てず、圭太は「・・・そうか」と呟いていた。
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