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気まずい空気が流れる中、不意に圭太のスマホが震え出した。圭太はピクリと体を震わせ、ノロノロとした動作でスマホを取り出す。
表示されている名前を見て眉を顰めた。首を傾げ、立ち上がりながら圭太はスライドさせた。
「もしもし?」
『もしもし!兄貴?』
焦ったような声に、圭太はリビングの扉の前で立ち止まった。
「どうしたんだ?」
ノブに手を掛け、扉を手前に引いた。背中に修也の視線を感じたが、振り向くことは出来なかった。
『あのね、2、3日前、父さんが倒れたの』
寝耳に水の話に眉を顰める圭太に、近所に住む医者に往診に来て貰い今は落ち着いていると告げた。圭太に話せば心配させるから黙っているようにと言われたが、智花は報せないなんておかしいからと、連絡をして来たのだと言った。
「病院は?」
『往診に来て下さった先生にも、一度検査をした方が良いって言われはいるんだけど・・・父さん、病院嫌いだから』
「いい歳して何言ってんだ」
圭太が呆れたように言うと、だからねと、智花が続けた。
『風太を連れて帰って来て。んで、父さんに検査に行くように説得して。母さんも、気丈に振る舞ってはいるけど、心細いと思うし』
懇願に近い声音で請われ、圭太は思わず後ろを振り返り、扉に閉ざされた向こう側に思いを馳せた。
本心を言えば、今は修也の傍を離れたくなかった。別れ話の真意を知る為にも、傍に居たかったのだ。でも・・・切羽詰まった声で智花に『兄貴』と名を呼ばれれば否とは言えなかった。
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