第5章

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圭太は智花からの電話を切ったあと、直ぐさま幸也に電話をして、事情を話して迎えに行く旨を伝えた。幸也に『帰る支度をして置くように伝えておくよ』と言われ、感謝の言葉を告げると電話を切った。 修也には「実家に戻る」と一言だけ告げた。修也との間に漂う空気に耐え切れず、まともに視線すら合わせられず、逃げるように自室へと向かった。部屋に入るなり、溜め息を吐き出した。 「・・・なんだかな」 溜め息と共に吐き出された言葉が、圭太の心境を表す。訳が分からなかった。修也に沙織とのことを聞いた。その答えがいつの間にか別れ話になっていた。ーーいや、修也は昨日からずっと考えていたと言っていた。圭太にとっては突然の出来事だったが、修也は違うということなのか。 圭太はバックに着替えを詰め込みながら、何度目かになる溜め息を吐き出した。 暫く距離を置いた方が良いのかもしれない。そうは思いはするが、だからと言って事態が好転するとも思えない。 距離を置いたところで、修也が別れ話を撤回したりはしないだろう。 どうすればいいのか分からず途方に暮れる。 「・・・仕事も辞めなきゃいけないのかな・・・ここにも居られないよな」 圭太の脳裏に修也と過ごした日々が、走馬灯のように駆け抜けて行った。胸が引き絞られるような痛みを覚え、目がじわりと潤む。圭太は胸を抑え、唇を噛み締めると、襲い掛かってきた衝撃に耐えた。 一方的とも言えた別れ話に、どうしてと、声にならない声で呟いた。
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