第5章

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あんなに近しいと思っていた存在が、今はどうしようもない程、遠くに感じる。力強く抱き締める腕を思い出し、情熱的に口付ける唇を思い浮かべた。 何度も愛し合い、求め合った。愛してると囁き合ったのはつい最近なのに。その同じ口で残酷な言葉を吐いたのだ。 圭太は、くそっと呟き頭をガシガシとかいた。 思いを振り切るようにボストンバックを握り締めると、圭太は部屋を出た。階段を降り、修也へと続く廊下を見つめる。一声掛けて行こうかと思って、止めた。 今は冷静に顔を見れる気がしない。逃げてると言われても否定出来ない。あの、冷たい目で見られるかもしれないと思うと、体が竦んだ。 修也の傍を離れたくないという気持ちも、顔を合わせたくないという気持ちも本当だ。相反する思いを抱えたまま圭太は自分の車に乗り込みエンジンを掛けた。 ちらりと窓からビルを見上げた。古ぼけたビルが空々しく見える。今まで感じたことのない拒絶を感じて、圭太は溜め息を吐き出した。
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