第5章

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「・・・昔、良く・・・風太を構い倒していたみたいだからな」 沙織が困った顔で愚痴っていたのを聞くともなしに聞いていた。泣いて愚図る風太を、無理矢理抱き締めるのは日常茶飯事で、子供の後追いの如く、イヤがって逃げる風太を追いかけ回していたらしい。圭太からも注意して欲しいと懇願されたこともある。 それに対し、ほっとけと、素気無い一言で終わらせたのだが。確かに、何度か目にした行為は好意を通り越して、既に嫌がらせの域に達していた。 「・・・加減を知らないんだ」 半笑いで擁護しながら「でも、嫌なことは嫌だと言えよ」と、圭太は念押しする。 風太は複雑な顔をしながら、うんと答えた。 「あと・・・父ちゃんには妹が一人居てな。智花ってんだが、口は悪いしガサツな奴だけど、気のいい奴だから風太とも仲良くやれると思うぞ?」 「・・・会ったことある?」 「ああ、良く一緒に遊んで貰ってたんじゃないかな?」 「・・・ともちゃん?」 「覚えてんのか?」 「・・・なんとなく?」 首を傾げながら言う風太に「そうか」と笑った。 車は閑静な住宅街に入る。通りの先にある白い壁の家の前に車を横付けすると、玄関の扉が開き智花が出て来た。 「兄貴、ここ停めて」 二台並ぶ車の隣を示され、圭太は頷いた。駐車場に停め、車から降りると智花がしゃがみ込み風太と目線を合わせた。
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