第5章

70/178
前へ
/599ページ
次へ
「久しぶりだねー風太。私のこと覚えてる?オムツも変えて上げたし、お風呂にも入れたし、一杯一緒に遊んだんだよ」 「・・・ともちゃん?」 「そうそう。覚えてくれてたんだね。嬉しいよ」 智花はニコリと笑うと、風太の頭をくしゃりと撫でた。 「しかし、さすがだね」 「何がだ?」 「将来が楽しみな顔じゃないの。兄貴と沙織さんの良いとこ取りだよね。兄貴みたく、節操なしにはならないでね」 「・・・せっそうなし?」 首を傾げる風太に「気にするな」と伝え、智花を睨み付けた。 「子供の前では言葉を選べ」 「本当のことを言われて逆ギレとか笑えるし」 「会って早々ケンカ売ってんのか。心細いから今直ぐ帰って来てって、泣きついて来たのはどこのどいつだ?」 「母さんがって言ったよね?耳腐ってんじゃないの?」 「そうか。そんなに心細かったのか。・・・父さん、そんなに悪いのか?」 案じる声で問う圭太に、智花は苦々しげに答えた。 「・・・滅茶滅茶、鬱陶しかった。口を開く度に『俺はもう死ぬんだ。死ぬ前に、せめて風太の顔を見たかった』って恨みがましく言うから、だったら兄貴に連絡するって言ってんのに、心配掛けたくないからとか言うし・・・いっそ息の根止めてやろうかと何度思ったことか」 「それは止めとけ」 怖いセリフを吐く智花に苦笑する。
/599ページ

最初のコメントを投稿しよう!

419人が本棚に入れています
本棚に追加