第5章

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「風太!」 勢い良く玄関の扉が開いたかと思えば、黙って立っていれば、若い頃はさぞかしモテたのだろうと知れる、品の良さげな顔をした男が飛び出して来た。その後ろからは、ニコニコと笑いながら女が一人。 圭太の父親と母親だ。 「久しぶりだな、風太。元気にやってたか?」 智花を押し退けるように風太の前にやって来た父親は、風太を抱き上げ相好を崩す。 「おお、おお、益々俺に似て男前になったなぁ」 デレデレと鼻の下を伸ばす男と相反して、風太は顔を強張らせて圭太に助けを求めるかのように手を伸ばして来る。 「父さん、止めろって。風太が怖がってる」 「何言ってるんだ。風太は昔から人見知りが激しいだけだ。本当は嬉しいんだよなぁ。風太、じいちゃん好きだもんなぁ」 頬ずりをする顔を、涙目になりながらも耐える風太に、圭太はごめんなと、心の中で謝った。 何処をどう見てもイヤがってる風にしか見えない態度を、物の見事に自分の都合のいい風に解釈する父親に、半ば呆れ半ば感心しながら。 「圭太、おかえり」 ニコニコと笑う母親は、優しくたおやかで、おっとりとした喋り方と相まって周囲を和ませる。気の強い智花と、クセのある父親を上手くあしらい円滑に家の中を取り仕切るのだから、大したものだと常日頃から思っている。 鷹揚に構え、何もかもを包み込んでしまうそれは、母性と名のつくものなのだろう。
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