第5章

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「ただいま。ーーあれ、何とかしてくれ」 圭太が父親を指差すと、母親は笑顔で暴走した男を見て首を振った。 「母さんにも無理よ」 「圭太、これから3人で買い物に行って来るから、智花と二人で留守番頼むな」 「はっ?」 目を剥き、何言ってんだと咎める声を出す圭太を無視すると、男は自身の車に風太を連れ込み、チャイルドシートに座らせた。 「・・・父ちゃん」 風太の弱り切った声が聞こえた。 「好きな物買ってやるからな」 「・・・おれ、いい」 風太が小さく呟いた。 「母さん」 圭太が助けを求めるように母親を見れば「大丈夫よ」と何の根拠もなく嘯く。 「母さん、行くぞ」 運転席に乗り込み、エンジンを掛けて母親を急かす父親に「ちょっ、待てよ」圭太が制しの声を上げた。これ以上、可愛い我が子に無体な真似を強いたくない。 「大丈夫よ、圭太。あまりにも酷いようなら、止めるから。嬉しくて暴走してるだけだから、何の問題もないわ」 いや、それが問題なんだとは、さすがに圭太にも言えなかった。 その代わり止めるという母親の言葉を信じて、縋るような気持ちで託した。 「ごめん、頼む」 圭太は母親に、頭を下げながらも、風太を人身御供に出してしまったような罪悪感に苛まれていた。
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