第5章

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「・・・俺は風太の父親だ。自分の子供が可愛くない訳ないだろ」 圭太は少しバツが悪そうに顔を俯けた。そんな風に思うようになったのは、離婚してからだ。それを見越して話をしているのであろう智花を前にして、圭太の声が弱々しく響いた。 「どんだけ兄貴が風太を可愛がっているのは、風太を見れば分かるわよ。だからそんな顔する必要ないのに」 智花が呆れた声を出す。顔を向ければ、見たこともないような優しい目とかち合った。 「前までの兄貴とは違うんだって、ちゃんと分かってるから、胸を張りなさいよね」 どっちが年上なのか分からなくなるような、包み込むような眼差しに、圭太は眩しいものでも見るように目を細めた。 これが所謂、母性というものかと、智花にもちゃんと備わってるんだなと思いながら、圭太はしみじみと呟いた。 「・・・お前も女だったんだな」 「どこからどう見ても女でしょ」 「性格は、そこら辺を歩いてる男よりよっぽど男らしいけどな」 心の底からの言葉に、智花は返事の代わりに圭太をじっと見る。目は口ほどにものを言うを体現する智花から、圭太はそっと視線を逸らした。 体のあちこちから、嫌な汗が流れるのを感じながら。
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