第5章

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「実際、意地は2年しかもたなかったしね。最近の父さんの話題は、風太や兄貴がどうしてるかしかしなかったから。本当に気にかけていたし、心配してたんだよ?」 神妙な顔で智花は、だからねと脇道に逸れていた話を戻した。 「これ以上は父さんを心配させないで。沙織さんに会ったんでしょ?沙織さん、まだ兄貴のこと吹っ切れてなかったでしょ?風太には、まだまだ母親が必要だよ。沙織さんなら、本当の母親だし継子いじめみたいなことにはならないんだし、お得だと思うよ?」 「お得・・・ねぇ」 圭太は渋面を作り、智花を見た。生真面目な顔をした智花の口振りは真摯で、その内容に頷くことは出来ないが、気持ちは伝わって来た。 「・・・男と付き合ったって、未来なんてないんだから、これを良い機会と思って、すっぱりと縁を切って、前向きに考えてみてよ」 ここで、別れたのだと話せば、だったら話は早いとばかりに、沙織とくっつけようとするんだろうなと、圭太は密かに溜め息を吐き出す。 「兄貴にとっても、決して悪い話じゃないと思うしね」 圭太にとっては終わったことだ。焼けボックリに火なんてのは想像も付かない。 「気持ちもないのにか?」 「嫌いになった訳ではないのでしょ?沙織さん、相変わらず綺麗だったでしょ?兄貴の好み直撃だったはずだよ?浮気されたのなんか気にしないよね?男の見栄とか矜持なんて持ってないんだから大丈夫よ」 畳み掛ける勢いで貶す智花を睨み付けた。
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