第5章

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寂しいのは俺だ。別れ話を切り出した修也と顔を合わせ辛く、声を掛けることなくビルを出た。勇気を持てず、ヘタれたことをした自分に自己嫌悪した。 別れたくない。傍に居て欲しい。お前のこの先の人生は俺にくれるって言ったじゃないか。なんで、翻すんだよ。止めどなく沸き起こる修也への思いが、圭太を苦しめた。 それでも、思いを口に出来ないのは、何故なのか。圭太は痛みを訴える胸を押さえて、蹲った。 『そっちでゆっくりしながら、今後のことも良く考えたらいい』 「・・・今後のこと?」 圭太は眉を顰めた。 『ああ、仕事や住む場所だな。俺はこのままでも構わないが、お前の嫁さんになる相手が嫌がるだろう。仕事も住む場所も、ツテで紹介してやることも出来るし、その辺は心配ないから安心しろ』 なんの蟠りも感じられない修也の様子に、ああそうかと声にならない声で呟いた。気持ちを残してるのは自分だけなのだと、漸く認めることが出来た気がした。 心のどっかで、まだ修也の気持ちが自分にあると信じていた。 変わり身早過ぎだろと、心の中でツッコミを入れる。女々しくて嫌になった。こんな自分は自分じゃない。 圭太は顔を上げて、深く息を吸い込んだ。
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