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去る者は追わず。ずっとそのスタンスで生きて来た。ひどく胸が痛むのも、虚しさに襲われるのも、いずれは時が解決してくれるだろう。
離れて行く相手を引き止めるすべはない。
今は虚勢だっていい。俺にだって、プライドはある。
「そうだな。考えてみるよ。時間はたっぷりあるしな」
「ああ」
「・・・また、面倒掛けるかもしれないが」
「気にすんな」
思いは全て飲み込んで、圭太は笑った。軽口を叩き、何もなかったように振る舞った。また連絡する。そう言って電話を切った。
大きく息を吸い込み、静かに吐き出す。
ちゃんと出来たはずだ。上手くやれたはずだ。そんな俺を褒めてやりたい。ズキズキと痛みを訴える胸を押さえ「大丈夫だ」と言い聞かせた。
涙は出て来なかった。それが唯一の救いなのかもしれない。
振られるのは慣れてる。ただ、今回は突然だったから動揺しているだけだ。そんな素振りさえ見せなかったから。・・・いや、兆候はあったのかもしれない。仕事の初日以来、修也は触れては来なかった。
「・・・なんだ」
ははっと、乾いた笑いが口をつく。
「なんだ」
俺が気付かなかっただけかよ。小さな呟きが唇から溢れる。
一頻り笑って「バカだよな」自嘲する。
優しくされて、甘やかされて、ハマって捨てられた。
「・・・それだけのことだ」
ロクでもないことばっかしてた報いを受けた。だとしたらそれは、誰のせいにも出来ない。
「・・・因果応報ってやつだよな」
なら仕方ねぇよな。圭太は天井を見上げ、そっと目を閉じた。
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