第5章

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「・・・兄貴、なんかあったの?」 テーブルを挟んだ向こう側で、智花が窺うように圭太を見ていた。智花の隣に座る母親も、一人お誕生日席に座る父親も、圭太の隣に座る風太も、一応に同じ顔をしていた。 テーブルの上にはグツグツと音を立て、白い湯気を上げた鍋が乗っている。中身はすき焼きだ。風太の為に高い肉を買ったんだと、父親が自慢気に話をしていた。 甘辛い、いい匂いが漂っていた。きっと、普通の状態なら圭太もお腹を鳴らし、突いていたことだろう。 「・・・何がだ?」 問われる意味は何となく分かっていたが、圭太は敢えて訊ねた。 「何がって・・・無茶苦茶、暗いんだけど・・・兄貴の周りだけ空気が違うんだけど?その重たい空気が、こっちにも漂って来そうなんだけど」 ご飯が不味くなるでしょ?と、眉間にシワを寄せ、心配しているのか、ただ単に迷惑がっているだけなのか判断を付きかねる智花に、圭太は溜め息で返した。 圭太の前にある取り皿には、最初に乗せられた具が、そのままの状態で置かれていた。 「さっき、話してる時はまだ普通だったよね?あの後からさっきまでの間に、一体何があったのよ」 当然と言えば当然の疑問を投げかける。それに対し圭太は「別に」と投げやりに答えた。
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