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「しつこい」
いい加減にしろと、怒鳴れば、それはこっちのセリフだと怒鳴り返される。
『何回電話したと思ってるのよ。家でボッーとしているだけなんだから、さっさと出なさいよね』
「俺は忙しいんだ」
『はいはい』
「流してんじゃねぇぞ?」
『じゃあ、今何してたのか言ってみなさいよ』
「・・・・・・瞑想だ」
問われて、真面目な声音で答えた。
『・・・・・・バカじゃないの?』
バカって・・・それが兄貴に対する妹の態度か。呆れた声の智花にムッとした。
「お前なぁ、もうちょっと言葉を選べ」
『・・・まぁ、いいや、冗談を言う元気があるなら出て来れるよね』
圭太の抗議は軽く流される。
「・・・俺はどこにも行かない」
『ああ、もうそういうのはいいから』
おざなりにいなされて、そういうのってどういうのだよと不貞腐れた声で呟いた。
『・・・聞きたいの?』
「えっ」
『本当に、聞きたいの?』
二度目はゆっくりと問われる。意味深な問い掛けに、顔を引き攣らせた。
当然のように圭太の自己防衛本能が働く。智花の嫌味に対抗するだけの気力が、今の圭太には残されていない。
「聞きたくない」
『そう言うと思った』
クスクスと笑う智花に、そう言わせるように仕向けたんだろと、心の中で突っ込んでおいた。
昔はあんなに可愛かったのにと、過去へと思いを馳せる。小さい頃は『兄ちゃん、兄ちゃん』といつも後を追い縋っていた。姿が見えないと大泣きして、よく母親を困らせたものだ。それが・・・年月は残酷だよなと、圭太は遠くを見つめた。
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