第5章

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圭太にだって、帰る場所がある。そこには最愛の我が子が居る。自らの居場所はちゃんとあるのに、そこに修也が居ないと思うだけで、心のどこかに隙間風を感じてしまうのは何故だろう。 こんなにも沢山の人が溢れている中で、自分一人だけが真っ暗な中を彷徨っているような心許なさを覚えて、圭太はよろめいた。 こんな感情は初めてだった。女に振られた時も、離婚した時でさえ『仕方ないな』のひと言で自分の感情にケリを付けていた。誰かを思い、打ちひしがれる思いを抱えたことも、その相手が居ないと思うだけで、孤独に苛まれたのも初めてで、圭太は無意識に胸を押さえ襲いくる孤独に耐えるように唇を噛み締めた。 不意に声が聞こえ、顔を向けた。そこには満面の笑みを浮かべた女性が、彼氏と思わしき人物を迎えている。 日常の、ありふれた風景がそこにはあった。圭太は顔を歪ませると、不自然とも思われる動作で視線を逸らした。 ーー帰るかな。ボソリと呟く。智花には怒られるかもしれないが、行くと返事をした訳でもないし、いくらでも言い訳はつく。 圭太は踵を返し、駅前から足を踏み出した。そんな圭太の背後から、戸惑う声が投げかけられる。 「・・・圭太?」 その声に、圭太はピクリと肩を揺らした。 「・・・圭太だよね?」 再度問われ、無視する訳にもいかず、圭太は振り返った。
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