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「いや、俺は帰るから」
「ダメよ。逃さないから」
圭太の腕を掴み、沙織は企むように笑った。
「逃さないって」
圭太は半歩後ずさり、顔を引き攣らせた。怖いんだけど、とは心の中でだけ呟いた。そんな圭太を見遣って、沙織がクスクスと笑った。
「そんなにビビらなくてもいいじゃない。何も、取って食いわしないわよ。智花ちゃんが来られなくなった代わりに家に来て、食材を消費してくれたら解放して上げるから」
ねっ?とウインクをする。沙織からは口説くつもりがあると、はっきり宣言されている。修也に別れを告げられた今、誰に遠慮することなどないのだが、仮に女と遊ぶにしても、沙織とだけはそういった関係にはならないつもりでいた。
今は本気の恋愛はしたくない。だから、期待を持たせるような行動は慎むのが得策だ。
例え今の沙織にそんな気がないとしてもだ。圭太の返事に変わりはない。
智花が沙織とヨリを戻させようとして、今回のことを仕組んだのは分かっている。だからこそ、断る必要があった。
そんな圭太の心情を察したのか、沙織はすっと視線を落とした。
「悪いな・・・あのバカが何言ったのかは知れないが、俺は」
「あのね!」
圭太の言葉を遮るように、沙織が一際大きな声を出す。圭太はその勢いに押されたように押し黙った。
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