第5章

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「圭太は好きな人は居るの?」 思考の波に囚われていた圭太は、唐突に問われ意味を理解出来ないまま問いを発した母親を見た。 「・・・はっ?」 「好きな人は居るの?」 再度質問を繰り返す母親に目を瞬く。 「・・・突然、なんだよ」 親と、況してや母親とそんな話は気まずい。圭太はぶっきらぼうに尋ねた。 「・・・恋バナ?してみたくてね」 母親はニコリと笑い、目の前の椅子に腰掛けた。 「別にいい。したいなら智花とすればいいだろ?」 「智花とはいつもしてるもの。折角、帰って来てるんだもの、息子としたいわ」 「俺はいい」 「じゃあ、聞き役になってくれたらいいや。母さんが話すから」 ニコニコと笑う母親に、圭太は眉根を寄せた。 「浮気でもしてんのかよ。父さん、泣くぞ」 未だに母親にべた惚れの父親を思い浮かべる。 「やぁーねー。父さんと母さんの馴れ初めよ。圭太には話してなかったでしょ?」 「馴れ初め・・・」 大恋愛の末に結婚したってのは聞いたことがあるが、詳しくは知らないなと、母親を見た。 「興味出て来たでしょ?」 「あんまり生々しいのは、勘弁な」 親のあれこれは、程々が一番だ。そんなことを考える圭太に、母親はうふふと笑った。
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