第5章

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「母さんね、父さんに一目惚れされたんだ。でも、母さんは父さんのことが大嫌いだったの」 「嫌いだったのか?」 「嫌いじゃなくて、大嫌いよ。結構、自分勝手なとこあるじゃない?当時凄くモテてたから、余計に鼻持ちならない男だったのよね」 母親は、思い出しているのか目を細め遠くを見つめた。 「告白されたけど、もちろん断ってやったわ。そしたら呆然としちゃって・・・自分がまさか振られるなんて考えてもなかったんでしょうね。その茫然自失の顔を見た時に、胸が空く思いがしてね。ざまぁみろって思ったの」 悪し様に詰り、クスリと笑う顔を見ながら、意外な一面を見たと目を瞬いた。そうして智花の口の悪さは母親譲りなんだなと、妙に納得もした。 「そしたら今で言うストーカー?朝から晩まで付き纏われたのよ」 「・・・情熱的だな」 他に言いようがなかった。今だって母親が別れ話を切り出せば、ストーカーに成り下がるだろうことは、容易に想像が付く。 「それまで堕ちなかった女は居なかったみたいだから、半分は意地になってたんだとは思うけど、好きだから諦めたくないって、どんなに酷い言葉を投げつけても、態度を取っても、彼は諦めなかったのよ。必死になって私に向かってくるあの人に、プライドはないのかって聞いたら、そんな邪魔なものは今の自分には必要ないから捨てたって、言われたわ」 圭太は目を瞠り、意味深に見つめて来る目を見返した。
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