第5章

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「それを聞いた時にね、呆れたと同時に負けたって思った。嫌いで嫌いでどうしようもない筈だったのに、嬉しいと思う私がいるって気が付いた」 「・・・嬉しい」 「そう。でも、直ぐに認めるのは癪に触るから、仕方ないわねって言って、友達からなら良いわよって言ってやったの。でも、それは嫌だって言われたわ。友達から始めたら、友達のままで終わらせられそうだからって、だから、お試しでもいいから付き合って欲しいって、迫られたの」 当時の様子を赤裸々に語る母親は、1人の女の顔をしていた。見たことのない顔だった。多分、今まで父親にしか見せなかった顔なんだろう。 「みっともないって詰ったら、惚れた女を手に入れるんだ。なりふり構ってられるかって、怒鳴られちゃった。・・・あの人が諦めず、私に向かって来てくれたおかげで、圭太と智花を授かった。風太って孫まで見せて貰えて、母さん、本当に幸せよ」 ニコリと笑う。 「見栄やプライドは、もちろん必要よ?この世の中を生きて行く為には、色んな鎧を纏わなきゃ、いつか潰れてしまうもの。でも、自分の愛する人や、大切に思う人にまで、完全武装で居る必要はないんじゃないかな。自分の殻を脱ぎ捨てて、本心を語ることは、確かに難しいかもしれないけれど・・・本当に欲しいものを手に入れたいと願うのなら、それは避けては通れないことじゃないかと思うんだ」
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