第5章

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その言葉を聞いて圭太は、ハッと目を瞠った。突然こんな話をし始めた母親の意図を理解した。何も話なんてしていないのに、圭太のいつもとは違う様子から女の勘やら母親の勘で、色々と察知したらしい。 しかも、的外れではないところが恐ろしい。 「人を好きになるって、面倒くさいよね」 母親が慈愛に満ちた目を向けた。 「楽しいことだけならいいのに、悲しみや不安までくっ付いてくるから、しんどいよね。好きになればなるほど余計な心配事が出て来るし、自分だけのことじゃないから、儘ならないことばかりだしね。・・・でも、だからと言って、やーめたで諦められるような思いなら、そこまで悩まないものね」 「・・・俺は、別に」 「母さん、圭太にも本気で好きだと思えるような人が出来たのが、本当に嬉しいんだ。圭太は確かにモテるけど、そんな風に思い悩んだことはないでしょ?」 まるで全て見透かしたかのように母親が問う。 「いや、だから」 言い当てられて焦りながらも、認めるのは気恥ずかしくて、圭太は違うのだと母親に訴えた。 「そういうんじゃないんだ。母さんが思っているようなことじゃ、ないから。確かにちょっと落ち込んではいるけど、大したことじゃないし・・・心配掛けて悪いとは思うけど、大丈夫だから」 必死になって誤魔化す圭太を、母親は無言で見返した。 「だから・・・」 その目に耐え切れず、圭太は視線を彷徨わせた。
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