第5章

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母親は、真剣な目を瞬き一つで悪戯っ子のような目に変えた。テーブルの上に乗り出すような勢いで圭太に迫った。 「で?どんな人なの?圭太の心を捕らえた人だもの。きっと、素敵な人よね」 「・・・・」 「ねぇ、いくつの人?どこで知り合ったの?」 「・・・母さん・・・」 圭太は困ったように眉尻を下げる。その様子に「まさか」と、母親は探るように圭太を見つめた。 ドキリと心臓が跳ね上がる。相手が男だと気付かれた訳じゃないよな?と、若干の後ろめたさを感じて思わず視線を外しそうになるのを、何とか堪えた。 「・・・沙織さんじゃないでしょうね」 その名前に、目を瞬いた。 「・・・・・・沙織?」 「何だか、智花が画策してるみたいだけど。母さん、沙織さんなら反対だからね」 「違う、沙織じゃない」 速攻で否定して、首を傾げた。 「でも、何で沙織だと反対なんだ?」 結婚していた当時、嫁姑の間は上手くいっていた筈だ。思い返してみても仲良く話をしている二人しか思い浮かばなかった。 それとも、圭太の知らない所で軋轢があったのだろうか。そんな心配をする圭太に、母親は予想だにしない返答を返した。 「圭太の母親だからよ」 訳が分からず眉根を寄せれば「母親は我が子が一番可愛いのよ」とニコリと笑った。
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