第5章

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「沙織さんが浮気をしたのも、圭太や風太を置いて家を出て行ったのも、元はと言えば圭太のせいだって、分かってはいるのよ?沙織さんのことを、嫌いって訳でもないの・・・そこは誤解しないでね?」 圭太はその言葉に頷く。 「ただね、だからと言って、許せるものでもない訳よ。母親からしてみれば、彼女は大事な我が子と孫を捨てた女になる訳。智花は必死になって、沙織さんを擁護するのだけど、母さんとしたら『胸糞悪い』としか思えないわ」 口調は穏やかで、口元には笑みさえ浮かべる母親の目は笑ってはいなかった。激しく激昂するでもなく、静かに毒を吐く。 沙織は悪くないんだと、庇ったところで意味などないだろう。母親だって言っていた。全て圭太が悪いと。それでも、許せないのだと。 だから圭太は「ごめん」と頭を下げた。 「不甲斐ない息子でごめん」 離婚した時、母親はどんな気持ちでその話を聞いていたのだろう。喧嘩別れのようになって家を飛び出した息子を、どれだけ心配させたのだろう。 母親だから許せないと言った母親の気持ちを思うと、後悔ばかりが押し寄せた。 自分の過去の行いを今更悔やんだところで、過去が変わる筈もないし、母親の気持ちも変わらないのだろう。それでも、申し訳ない気持ちが溢れて止まらなかった。
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