第5章

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「まぁ、彼女の話はもういいわ。母さん、お腹いっぱいだから。それより、圭太の想い人の話よ。・・・居るんでしょ?」 どうやら母親は、問い詰めることを諦めるつもりはないようだ。圭太はハァと溜め息を吐き出した。 「・・・優しい奴だよ。包容力があって、傍に居るだけで安心するんだ」 そうだ。安心するんだ。あいつと居ると。気負わなくてすむ。自分を取り繕うことなく、自然体でいられた。情けない自分を最初に見られていたからかもしれない。 「一生、共に歩いて行きたいと思った。そんな風に初めて思えた奴なんだ」 結局、叶わなかった願いが虚しく響いた。 「そんな人が圭太に現れたんだ。・・・付き合ってたんだよね?」 「・・・ああ、振られたんだけどな」 自嘲する圭太に、母親は眉根を寄せた。 「諦めるの?」 「振られたんだって、言ったよな」 「どうして振られたの?」 「それは・・・」 男同士、未来がないから。口には出来ない言葉を心の中で呟いた。それでもいいと思った気持ちは棚上げにされた。 「気持ちが冷めたとか言われたの?他に好きな人が出来たとか、言われたの?」 「いや、違う」 「・・・じゃあ、相手の人もまだ圭太のことを好きだけど、何らかの事情があって別れなきゃいけなかったってこと?」 母親の言葉に頷いた。
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