第5章

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「男とか女とか、そんなのは関係ないんだ。たまたま惚れた相手が男だっただけだ」 そうだ。俺はあいつだから惚れたんだ。 最初は怪し過ぎる容貌に逃げ出した。それなのに、2回目に会った時には、何故か抱き締められていた。鳥肌立って、逃げ出してもおかしくない状況だったのに、嫌悪感すら湧かなかった。甘い柔軟剤の香りが修也の匂いと混じり、気持ちを落ち着かせたのを覚えている。 あの日から修也はずっと傍に居て、影に日向に支えていた。父親として風太への接し方が分からなくて、右往左往する圭太に『そんなに気負うな』と鷹揚に笑ってくれた。 『子供だって自分で一生懸命に考えて行動してるんだぞ?親はやっちゃいけないことを教えてやって、後は、一歩後ろに下がって見守ってやるくらいが丁度いいんだ。後ろから見守って、危ない時には手を差し出して支えてやれ。あれもこれもと口を出して手を貸してやってたら、楽することばかり覚えてロクな人間にならないぞ?』 迷う圭太の手をさり気ない素ぶりで引いてくれた。見上げればそこにある存在に、どれだけ救われたか分からない。 好きだと言われ、戸惑った。男同士だからと修也の気持ちから目を逸らそうとする圭太を、修也は許さなかった。揶揄う口調の中に真実を織り交ぜる。 追われて求められて、堕ちたのは圭太だ。 この先に、確約なんてない。男と女のように、婚姻することも出来なければ、バレれば後ろ指を指されることだってあるだろう。 それでも俺はあいつを選んだんだ。 『諦めるの?』 母親の問い掛けが圭太の脳裏を過った。
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