第5章

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それでもと、圭太は願ってしまう。それでも、修也と共にありたいと。風太も修也も失いたくないと思うのは我が儘なことなのだろうか。 『圭太のそんな顔は見たくない』 俺はどんな顔をしていたのだろう。あいつが望むのだからと無理に納得して、カッコつけて、さぞかし情けない顔をしていたんじゃないだろうか。 「兄貴!」 智花が切羽詰まった顔で、圭太へと詰め寄った。 「・・・・・・智花、俺に足りないのはなんだ?」 「・・・振られたんでしょ?諦めたんでしょ?それでいいじゃない」 修也の顔がチラついた。自分より少し高いめの体温を思い出す。絡みつく腕に、厚い胸板に抱き締められる度に安堵した。あいつの目や、仕草、一つ一つの言動の全てが、まるで渇望するかのように求めて来た。貪り食らうようなそれが嬉しくて、心が震えた。 俺はそんなあいつの思いに、ちゃんと応えてやっていただろうか。 ーー修也は何で俺と別れようなんて言い出したんだっけ? 「兄貴」 焦れた声に、圭太は再度繰り返した。 「俺には何が足りない?」 智花は苦虫を噛み潰したような顔をし、ふいと顔を逸らすと、絞り出すように一言呟いた。 「・・・・・・執着」 「・・・執着?」 智花はああーもうと、頭を掻きむしると大きく溜め息を吐き出した。
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