第5章

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一人部屋に篭っていた。先程交わした智花の言葉が頭の中でグルグル回る。何も捨てられないのだと智花が言った。 俺は何を捨てられないのだろうと、圭太は考えていた。いや、考えなくても分かっている。智花は何も、物質的なことだけを指して言った訳ではない。 それは、圭太が持つプライドだったり、見栄だったり、智花が言うところの下らないモノのことなのだろう。 確かに下らない。そんなモノの為に、大切な存在を手放すのだから。 改めて気付くそのことにイヤだと本能が騒いだ。 なら、と思う。どうすればいいのかと考えて、捨てればいいのだと思い付く。 そのことに今初めて気付いたかのように、圭太は目を瞬かせた。 一人悶々とこんな風に思い悩むくらいなら、みっともなくてもいい。全て曝け出して修也に縋ればいいんだ。情けない場面ばかり見られているんだ。カッコつけて取り繕った所で、今更だ。こんな風に思いを残したまま終わりにするよりもよっぽど良いじゃないか。 足掻いてみたいと思った。 このまま何もせず、ただ手をこまねいているだけでいたら、確実に修也とのことは終わってしまう。 ーー今更だろうか。もう修也の中では終わってしまったことになっているだろうか。そこまで考えて、圭太は被りを振った。・・・それは、敢えて見ない振りをした。そんなことを思ってしまったら、本当に動けなくなってしまう。
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