第5章

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智花は圭太から視線を外すと、立ち尽くす父親に目を向けた。 「父さんも頭ごなしに言い過ぎ。そりゃ、兄貴も頑なになっちゃうよ」 智花は父親にも同じように意見すると「兄貴と仲違いしたい訳じゃないんでしょ?」と訊ねた。 「また風太に会えなくなっちゃうわよ?」 そのセリフが父親にトドメを刺した。ぐっと言葉を詰まらせ、憮然とした顔で押し黙る。 「ほら、座って。話し合いは始まったばかりだよ?」 促されるまま、ソファに座り直す父親を見て、智花はうんと頷いた。 「ねぇ、母さん。さっきから黙ってるけど、母さんはどう思ってるの?」 主導権を握ったまま、智花は母親を見た。 ーーおい。そんな智花に圭太は内心で突っ込みを入れた。何、人の話を仕切ってんだと。だが、心の片隅では感謝もしていた。智花のお陰で、室内に漂っていた険悪な空気が霧散していたから。 あのまま行けば智花の言う通り、父親は『出て行け』と感情に突き動かされるまま叫び、圭太も『出て行くさ』と家を飛び出しただろう。 2年前と同じように。そして、その時よりも最悪な形で。
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