第5章

135/178
前へ
/599ページ
次へ
「圭太」 母親の呼び声に顔を向ける。 「父さんのことは母さんに任せて。今は父さんも、頭が一杯一杯になっているだけだと思うの。暫くすれば落ち着いて考えられるようになると思うわ。・・・父さんにだって圭太の真剣な気持ちは伝わってる。きっと分かってくれるハズよ。だから、もう少し時間を上げて?」 「・・・母さん」 懇願するかのような声音が、圭太の胸を締め付けた。 「ね?お願いよ。捨ててもいいなんて悲しいことを言わないで。父さんも母さんも圭太が大好きなの。幸せになって貰いたいと、心の底から願っているのよ。圭太が、その相手にと選んだ人なら、時間は掛かるかもしれないけど、きっと父さんも受け入れてくれるわ。ーーもしかしたら、また意固地になって素直になれないかもしれないけど・・・それでも、時間がたって、頭ごなしに反対したことを反省して、きっと圭太に会いたいって言い出すと思う。その時は、父さんに会って上げて?・・・そして、その人を紹介して上げてね」 母親の真摯な声に、圭太は泣きそうになった。我が儘勝手な息子に心を砕き、寄り添おうとしてくれる母親の願いに、圭太はただ頷くことしか出来なかった。 「ありがとう、圭太」 母親はホッとしたように微笑んだ。 感謝しなければいけないのは俺の方だ。圭太は「・・・ごめん、ありがとう。父さんのこと、お願いします」そう言って頭を下げた。 「うん、よろしくされます」 母親は頷くと、身を乗り出し圭太の頭に手を置いた。小さな子供をあやすように頭を撫でる。 「幸せになるのよ」 「・・・うん」 優しく撫でる手から、母親の思いが伝わってくる。母親にだって、色々思うところはあっただろう。それでも受け入れてくれたのだ。真実を打ち明ける圭太の味方になってくれた。 その思いに応える為にも、圭太は修也を絶対に手に入れると、決意を新たにした。
/599ページ

最初のコメントを投稿しよう!

418人が本棚に入れています
本棚に追加