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沙織は涙を拭ったあと、毅然とした顔で笑った。目は赤く腫れ、痛々しい程だったが、その顔は何かを吹っ切ったかのように清々しかった。
「結局、ダメだったな。圭太とやり直せれば、風太も取り戻せるから、言葉は悪いけど一石二鳥だなんて思ってたんだ」
「お前・・・」
呆れた顔を向ければ「イヤな女でしょ?」と笑う。
「圭太の前で必死に猫被って、イヤなとこ見せないように頑張ってたんだぁ」
「・・・どの沙織も沙織だろ」
イヤなとこも良いところも、引っくるめて沙織という人間だ。自分を卑下する必要なんてどこにもない。それに気付かず好き勝手やっていた俺の方こそ責められるべきだろう。
「お前はイヤな女なんかじゃねぇよ。良い女だと思うぞ」
圭太の言葉に沙織が目を瞠る。
「・・・どうして、最後の最後でそんなことを言うかな。ホント最低だから」
麻生さんも苦労するわよね。呟かれた言葉に、悪いと謝った。
「謝られてもね」
クスリと笑い、ふっとその表情を変えた。
「・・・圭太、風太をお願いね」
母親の顔をし、頭を下げる。
「ああ、安心して任せろ」
「うん。・・・もう、行くね」
「ああ、元気でな」
「圭太も」
沙織は車から降り立つと、振り返ることなく歩いて行った。
圭太はその背中を見送ったあと、車のエンジンを掛けた。
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