第5章

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◆ 圭太は風太を連れて修也の居るあのビルへと戻っていた。沙織と別れたあと、実家に一旦戻り、風太と荷物を引き取った。 乗り切れなかった荷物は、後で送って貰うことにした。 「・・・父ちゃん、なんかドキドキする」 緊張した面持ちの風太に「俺もだよ」と圭太は返した。圭太は風太とはまた違う緊張を強いられていた。それは不安を伴い、ひどく心許なかった。 実家に寄った際、一度修也のスマホに電話をした。直ぐにアナウンスが流れ修也へは繋がらなかったのだ。事務所に電話をしてもコール音が鳴るばかりで、連絡が付かない。 「そういえば、じいちゃんに、なにも言わずにきちゃった」 「ん?・・・ああ、そうだな。でも、もう二度と会えない訳じゃないんだし、あんまり気にするな」 「うん・・・でも、じいちゃん、びょーきじゃないのか?どっか、わるいんだろ?」 不安そうな顔で風太に訊かれ、今回の帰省の理由を思い出す。 「・・・ああ、大丈夫だ。年と疲れのせいで調子が悪くなっていただけだ」 圭太は、まさか智花の嘘だとも言えず、風太を安心させる為、適当な理由をこじつける。 「風太に会えて、元気になったって言ってたよ」 風太は疑う様子もなく、ホッとした顔で良かったと呟いた。
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