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「さっき、事務所に行ったら休業の張り紙があって、修也の姿が見えなかったんだけど・・・芳樹さん、何か聞いてない?」
「あれ?修の奴、圭に何も言ってないの?」
目を瞬く芳樹に圭太は慌てる。
「あっ、えと、親父が倒れたって連絡があって、急遽実家に帰ることになったんだ。多分・・・余計な気を回させないように黙ってたんじゃないかな」
半分は本当で半分は嘘の事実に、芳樹は疑う様子もなく「そっか、大変だったね」と心配そうに圭太を見た。
「あっ、でも、大したことはなかったんだ。風太の顔を見たら途端に元気になってさ・・・なっ」
最後は風太へと話を振る。風太はスプーンを口に咥えたまま、大きく頷いた。
「いっぱい、じいちゃんとあそんだんだ」
「そっか、そっか。一杯遊んで貰ったのか。良かったな」
「うん」
風太が元気良く頷くのを、芳樹は目を細め見つめた後、圭太へと視線を移した。
「・・・修の居場所だったね」
「はい」
「修は友達の所に行ってくるって言ってたよ」
「・・・友達?」
「そう。仕事もひと段落ついたからって言ってね」
「誰とか、名前は?」
「ああ、そう言えば訊くのを忘れたな」
芳樹の言葉に、圭太はガクリと肩を落とす。芳樹なら何か訊いているかもしれない。そう思ったのに望みが絶たれてしまった。落ち込む圭太に向かい、芳樹はでもと、言葉を続けた。
「連絡先は訊いてる。何かあったら連絡をくれってね」
指先に挟んだメモ用紙をヒラヒラとさせて、芳樹は悪戯っ子のような笑みを浮かべてみせた。
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