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男が姿を現しただけで、ざわりと空気が蠢いた気がした。さっきまで賑わっていた通りが、しんと水を打ったように静かになった。
白皙の肌。切れ長の瞳。横顔しか見えないが、怖いくらいに整った顔は、まるで感情のない人形のようにも見える。そこに居るだけで放たれるオーラに圧倒された。
男の薄い唇が修也に向かいゆるやかに弧を描く。その途端、冷たくも華やかな笑顔が浮かび上がり、思わず圭太は見惚れていた。
男が腕を伸ばし、修也に触れた。ゆるく拘束するかのように腕を回す。
抱擁を解くと、黒く艶やかな髪を無造作にかき上げ、チラリと圭太へと視線を向けた。
「ーーーーっ」
ドキリとした。目が合ったような気がして、圭太は射竦められたかのように息を止めた。
凍るような鋭利な瞳に怖気が走る。ほんの一瞬のことなのに、背筋にツッと冷や汗が流れた。
視線の先で、困ったように笑う修也を促し、男が車に乗り込んだ。
その姿が見えなくなった途端、まるで呪縛が解けたかのように圭太は大きく息を吐き出した。心臓が痛いくらい脈打っていた。ハンドルを握る手が汗ばんでるのを見て、乾いた笑いを零した。
「なんだよ、あれは」
なんて男にあいつは一目惚れするんだよ。
敵わないと思った。昴は昔の話だと言っていた。修也は振られたのだとも。でも、本当にそうなのだろうか。だとしたら、あのハグはなんだろう?外国じゃあるまいし、挨拶とも思えない。
修也も困ったような顔はしていたが、嫌そうには見えなかった。もし、あの男が修也に対してその気になったら・・・いとも簡単に堕ちるんじゃないかと、そんな思いに駆られていた。
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