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「圭太」
再度名を呼ばれ、圭太は大きく息を吐き出した。
そう、俺は修也になにも伝えてない。これ以上、傷付きたくなかったから諦めようと思った。
ちゃんと気持ちを伝えると決心したのに。これじゃあ、今までと何も変わらない。
それどころか、自分の気持ちから目を背けて逃げ出そうとしたんだ。
俺は弱い。本当に、情けなくなるくらい弱い。
「圭太」
修也は待ってる、と思った。惑う圭太に、ほんの少し焦れながら。
名を呼んで、心を決めろと迫ってくる。
俺はどうしてここに来たんだ?先ほどの修也の問いを、己自身に問い掛ける。
修也に他に男が居たから何だってんだ。俺の気持ちには関係ないじゃないか。例え振られるにしても、このまま何も伝えないまま別れたら、俺はきっと、一生後悔する。
そんなのは嫌だ。
何故だか修也はチャンスをくれた。わざわざ逃げる俺を捕まえて、話を聞こうとしてくれている。優しく促して、話しやすくなるようにと、心を配ってくれている。
理由は分からない。新しい恋人に対して、前の男とは完全に終わっているのだと、アピールしようとしているのかもしれない。
それでも、と圭太は心を決める。
修也の思惑なんて関係ない。修也に思いを告げる最後のチャンス。これを活かさないでどうするんだ。
圭太は拳を握り締めて、修也を見返した。
「・・・俺は・・・お前が好きだ。他の奴なんて要らない。俺は・・・俺はただ、修也が居ればそれでいいんだ。・・・修也と、残りの人生を一緒に過ごしたい」
修也を愛してるんだ。言葉は修也の唇の中に吸い込まれていった。
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