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顔を強張らせる圭太に「怖いか?」と修也が訊ねた。
圭太は首を左右に振って否定した。
「・・・そうか?」
窺うような目に圭太は頷いた。嘘ではない。告げられた内容は確かに常軌を逸しているが、怖くはない。むしろ嬉しいとさえ思った。
怖かったのは、修也の目に浮かび上がった陰だ。仄暗い色を宿した目が怖かった。
「・・・俺は怖い」
修也がボソリと呟く。
「・・・そんな風に制御出来なくなる自分が怖くて仕方なかった。俺は惚れると相手にのめり込む。何も見えなくなって、歯止めが効かなくなる。だから・・・そんな風になる前に、逃してやろうと思ったんだ」
今ならまだ抑えられるからと、修也は自嘲した。
「俺は・・・修也には全部知られてるから何を言ったところで、取り繕ってるようにしか聞こえないだろうが・・・今まで、こんな風に誰かを思って心を掻き乱されることはなかった。別れを切り出されて、胸が痛くて苦しかった。何してても修也のことが頭から離れなかった。いつものことだと思おうとするのに、上手く行かなかったんだ」
振られてばかりいた。凹んで酔い潰れる姿を、修也には何度も見られている。慣れているはずの痛みは、全く知らないものだった。
切なくて涙するのも、取り乱して必死になるのも修也だからだ。
「俺は修也と別れたくない。その為に出来ることは何だってするつもりだ」
修也に対する気持ちは、他の誰とも違う。だから、信じて欲しい。過去の自分じゃなくて、今の自分を見て欲しかった。
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