第5章

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「俺はどう頑張っても母ちゃんにはなれない。飯作ったり、世話焼いたり、真似ごとは出来るが所詮は男だ。・・・俺の手でお前達を幸せにしてやりたかった。家族になりたかった。でも、それは俺の一方的な思いでしかない。お前達に対する気持ちは誰にも負けない自信はあるが・・・・・・女にはやっぱり敵わねぇと思ったんだ」 自嘲しながら最後に呟かれた言葉に圭太は眉を顰めた。 何だか無性に腹が立って、力任せにガシッと蹴り付ける。「痛いっ」と声を上げた修也を睨んだ。 「あのな、お前、色んなことをぐちゃぐちゃ考え過ぎ。大雑把な性格してるくせに、変なとこで繊細になってんじゃねーぞ」 「そうは言うがな」 「うるせぇよ」 反論しようとする修也を遮る。 「何でもかんでも自分の中で勝手に結論付けるな。答えを出すな。何が女には敵わねぇと思っただ。卑屈になりやがって・・・あーー腹立つ」 ガシガシと乱暴な仕草で頭をかき、圭太は戸惑う目を向ける修也を睨め付けた。 「いいか?良く聞けよ。風太はお前が敵わないって言ってる女より修也を選んだ。俺たちのことを把握した上で、早く迎えに行ってこいって背中を押したんだ」 驚く修也に、圭太は眉間に寄るシワを緩めた。全く仕方ないなと、修也を見つめる。 「お前はもう、俺と風太の大切な家族だよ。お前だけの一方的な思いなんかじゃない」 そんなことも分からなくなったのかよと、呆れた声を出す。圭太の言葉に一瞬固まった修也は、そのあと激しく瞬きを繰り返した。泣き出しそうな顔を隠すように圭太に縋り付く。 「俺も風太も修也を選んだ」 だから二度とそんなことを口にするなと、圭太は修也の頭を抱き抱えながら告げた。 「・・・そうだな」 首筋に額を乗せ、修也はホッとしたように呟く。 肩や胸元、回された腕の体温が心地良い。修也の息遣いを首筋に感じて、やっと修也の元に戻って来たのだと、実感した。
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