第5章

178/178
前へ
/599ページ
次へ
「・・・圭太の両親に挨拶に行かないとな」 「・・・挨拶?」 「ああ、圭太と風太を下さいってな」 クスリと笑う修也の吐息が擽ったい。 「反対されても、殴られても諦めるつもりはないからな」 「・・・そうだな。じゃあ、俺も一緒に殴られてやるよ」 道のりは長く険しいのかもしれない。困難ばかりが待ち受けているのかもしれない。 でも一人じゃない。二人なら大丈夫だと、根拠のない自信が沸き起こる。 安堵したからなのか、互いの腹の虫がグゥ~と盛大に鳴り響いた。思わず顔を見合わせて苦笑した。 「・・・腹減ったな」 「ああ」 ちゅっと触れ合うだけのキスを交わし合う。修也はビニール袋を引っ張り寄せると、圭太の手におかかのおにぎりを乗せた。 「沙織に感謝しないとな」 ボソリと呟く圭太に、修也が「そうだな」と複雑な顔をしながら同意した。 沙織には散々振り回されたような気がするが、修也と引き合わせてくれたのも沙織だから。 「お前に出会えて良かった」 素直な言葉が滑り落ちた。おにぎりの封を開ける手を止め、修也が瞬く。 マジマジと見つめられ、圭太は気恥ずかしくなってそっぽを向いた。 「俺もだ。圭太に出会えて良かった」 優しい声音が心を擽る。 「一生大切にする」 修也の思いが心に染み渡っていく。 手にはおかかのおにぎり。下半身はシーツに覆われてはいるが、何も身に纏ってない。 対する修也もおにぎりを手にし、下着だけを身に付けた状態だ。 お互いサマにならない格好で将来を誓い合う。進藤が見たら呆れるだろうかと考え、自然と口角が上がる。 「修也、結婚は出来ないが婚姻届は書かないか?」 「婚姻届?」 「ああ、で、証人の欄には進藤に名前を書かせるんだ」 最後まで引っ掻き回したのだから、最後まで責任を持って貰わなきゃ納得がいかない。 きっとあいつは、めんどくさいと散々文句を言いながらも、引き受けるだろう。 「・・・そうだな」 さっきよりも、更に複雑な顔をする修也が頷いた。 「メシ食って、もうちょっと落ち着いたら帰ろう。・・・てか、帰りたい」 風太の待つ我が家へ。 「大丈夫なのか?」 気遣う修也に頷く。支えて貰わなきゃ歩けないかもしれないが、修也なら嬉々としてやるはずだ。 「ああ、大丈夫だ。だから早く帰ろう」 「ああ、そうだな」 幸せな余韻に浸りつつ、圭太は手に持つおにぎりにかぶりついた。 完
/599ページ

最初のコメントを投稿しよう!

418人が本棚に入れています
本棚に追加