1  すさんだ心

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「久しぶり」  通学路にしている100段階段の下で、そう声をかけられた。声をかけた主は階段を降り切ろうとしている。 「彩夏?」 「そう」 「ああ、お久しぶり」  そのまま彼女は小さく手を振って、美野里の上がってきた道を下っていった。  山宮彩夏。小学校時代の同級生で、私をいじめてきた張本人だった。  6年のころには完全に不登校になり、美野里は私立の女子校を受験した。女子校にした理由は、彩夏とつるんでいた男子がいじめの先頭に立っていたからだった。  あれから2年。中2になったので、美野里の学校ではスカートを上げてもよくなり、第一ボタンも開けていいことになった。  美野里は真っ先に上げたクチで、中一のころは学校を出てから上げていたのが校内でも堂々とできるようになったのである。    中学入学と同時に前髪を切り、完全なる中学デビューを果たした美野里は、今では次期生徒会長と目されるほどの人望を集めるに至っていて、中学デビューは成功したと思っている。  スカートの丈も、軽く巻いた髪も、メイクも、リボンに付けたチャームも、公立の中学ではできないことだ。その外見のすべてが、見返すための材料になっている。  かつての級友たちに自分を見せつけるために、わざと彼らが通りそうな道と時間を選び、すれ違う人がいなくても堂々と歩いてみせる。それが美野里の復讐だった。  対して彩夏は小学校の頃よりもむくむくと太り、2度見しないと誰だかわからなくなっていた。声をかけられたときは、会ったのが彼女でよかったと思った。    彩夏は表面はいい人で、入学式の直後に最初に声をかけてきたのが彼女だった。 「あたし、山宮彩夏。よろしくね」  そう言って笑った彼女の第一印象は「友達になれそう」だったのだが、1年の2学期に入ると、その第一印象が崩れてくるようになった。  発端は9月に開かれた作品展で、1年のテーマは動物の工作だった。徒歩30分ほどの所にある多摩動物園に遠足で行き、各自実際に見て、作る動物をを決めるというもので、彩夏はパンダ、美野里はオランウータンに決めて、それぞれ取りかかった。  その時のオランウータンの出来は最悪だったと自覚している。当時の作品の写真を見ても、どこがオランウータンなのか自分でも分からないし、ただの物体にしか見えない物だった。けれど、それを見て言った彩夏の言葉が最悪だった。   
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