第2話

3/3
前へ
/56ページ
次へ
 それは白いプラスチックの半球で、ご飯の冷凍保存容器に似ている。平らな蓋がしてあり、そこにストローの差し込み口のような小穴がある。軽く振ってみると中身は軽く、カップ麺のようなカサカサという音がした。  文男は落胆のため息をつき、それを台所に持って行った。台所には浄水器を3倍に大きくしたような器械があり、そこから細いチューブ状の蛇口が出ている。  文男は慣れた手つきでチューブの先端を容器の穴に刺し、ボタンを押し、水を注入した。自動的に適量の水が出て容器を満たす。それを電子レンジに入れて温め、蓋を開けると中から湯気の立つラザニアが現れた。  文男はまたため息をついた。  持てる温度に冷めたラザニアの容器をダイニングテーブルに置くと、ごろり、と転がった。底が完全な半球になっているのを、文男はいつも忘れてしまう。  専用のトレーを取って来て、その上に置くと容器は安定した。容器の底とトレーの表面にはマジックテープが付いていて、くっついて固定されるようになっている。  ラザニアを一口食べた文男は顔をしかめた。まずい。すぐにテーブルの上の小瓶を取って中身を振りかけた。それは黒い液体だったが、醤油ではなくコショウ。瓶には「液体コショウ」と手書きされたラベルが貼ってある。  何とか食べられる味になったのにひと安心して文男が口を動かしていると、妻の祥子が帰って来た。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加